髪の命は頭皮のなかにある。見えない部分こそ重要
年齢を重ねるにつれて、体にはさまざまな変化が起こります。髪の変化もその一つです。白髪が増え。抜け毛が目立ち始めます。毛が細くなって、ハリやツヤがなくなったと感じる人も多いでしょう。こうした髪の変化を防ぐことはできないのでしょうか。頭髪医療を専門とする城西クリニック院長・小林一広先生に聞いてみました。「中高年の抜け毛や白髪などは老化現象の一つですから、完全に防ぐことはできません。でも、時計の進行を遅らせることはできます。そのために、もっとも大切なのは、心身ともに健康であることです。」
髪がつくられるのは、頭皮のなかにある毛球と呼ばれる部分です。このなかの毛乳頭というところで血管から栄養を取り込み、毛母で髪の細胞がつくられます。毛母が細胞分裂を繰り返すことで髪は徐々に成長し、頭皮から飛び出して、ようやく目に見えるようになるわけです。心身が健康な状態であれば、血管の流れはスムーズで、毛球にも十分な栄養分が届けられます。しかし、何らかの異常があると髪の原料となる栄養分が不足してしまうため、トラブルが起きてしまうのです。
髪の若さを保つためには、目に見える部分のヘアケアだけに気をつけてもあまり効果はあがりません。頭皮のなかには隠れている毛根の働きをよくするために、まず心身両面の健康を保つように心がけることが必要です。
ヘアサイクルが順調なら 髪は抜けてもすぐに生えてくる
髪の寿命は男性が3〜5年、女性が4〜6年。寿命がくると髪は抜け落ちますが、通常は3ヶ月程度で新しい髪が生えてきます。この抜け毛と発毛の繰り返しはヘアサイクルと呼ばれており、これが、正常かどうかが重要になってきます。
ヘアサイクルには、成長期、移行期、休止期という三つの段階があります。髪全体での割合でいうと、一般的には成長期が90%前後、移行期が1%、休止期が10%前後と見られています。日本人の髪の本数は約10万本。1日の抜け毛は通常50〜100本程度です。ヘアサイクルが順調で、古い髪が抜けても新しい髪がスムーズに生えてくれば、髪の本数は、変わりません。しかし、老化などが原因で新しい髪がつくられるスピードが落ちてくると、発毛が抜け毛の数が追いつかず、薄毛になってしまうのです。さらに、毛球部が退化してしまい、まったく発毛が見られないとハゲになってしまいます。また、加齢にともなって毛球が衰え、成長期に短くなるので、髪が細くなります。本数は変わらなくても、一本一本が細くなると薄毛に見えてしまうものです。
薄毛やハゲの原因としては、老化のほかにも、遺伝や男性ホルモンの影響、血行不良、ストレス、食生活などがかかわっているのではないかと考えられます。「抜け毛のメカニズムについては、まだまだ不明な点がたくさんあります。」と小林先生。例えば、女性は男性よりも薄毛やハゲが少ないのですが、これは、脱毛の原因となる男性ホルモンの働きを、女性ホルモンが抑制しているためと考えられます。そのため、女性ホルモンの分泌が減少する更年期になると、抜け毛が多くなり、髪が細くなってハリがなくなってきます。ところが、この場合も個人差が大きく、かなり薄毛になる人もいれば、ボリュームがあまり変わらない人もいるのです。
発毛治療
内服薬と外用薬を併用し、3〜6ヶ月で効果上げる
病院で行う専門的な発毛治療は、内服薬と外用薬を併用するのが一般的です。血液検査、血圧測定などを行ったうえで、薬が処方されます。治療の効果は、脱毛の原因によって差があり、個人差もありますが、「ほとんどの場合、3〜6ヶ月で発毛の兆しが見られます」(城西クリニック・小林一広院長)発毛治療は基本的に保険適応外です。治療費の目安は、初診料が検査費も含めて1万5000円、その後は、月に一度の来院で診療費(治療薬30日分込み)の上限は3万円。そのほか、希望すればドクターズコスメ(ヘアケア商品)を別途購入することもできます。
発毛治療は皮膚科の診療になりますが、どの病院でも実施しているわけではありません。また、この数年、頭髪専門の病院は誕生していますが、まだまだ数は非常に少ないのが、現状です。ただ、発毛治療は基本的に月に一回程度の通院でいいので、病院が少し遠くても診療を受けることは可能でしょう。また、どうしても通院が難しい場合は、電話での診察を行っている病院もあるので相談してみることをおすすめします。
植毛治療
自毛を移植する手術によって定着率が大きくアップ
現在、植毛治療は自分の髪を毛根ごと移植して再生させる「自毛植毛」が主流です。人工毛の移植と比べると、術後の拒絶反応がなく、定着率も格段に高くなります。移植に使われるのは、自分の後頭部から採取した毛根です。生え際や頭頂部にはかなり薄毛が進んでいても、後頭部や側頭部には髪がフサフサしている人が多くいます。その理由としては、これらの部分が脱毛症の誘因となる男性ホルモン由来の物質の影響を受けないためではないかと考えられています。この性質は、ほかの場所に移植しても変わらないため、植毛された部分は正常なヘアサイクルを繰り返し、髪が成長していくのです。
自毛植毛にはいくつかの種類がありますが、もっとも一般なのは摂取した髪を1〜4本ずつ細かく分けて移植する「遊離植毛術」と呼ばれる方法です。この方法だと生え際のラインや毛の流れもなども再現できるため、自然な印象をつくることができます。遊離植毛術の場合、入院の必要はなく、外来手術で日帰りができます。また、局所麻酔で行うので痛みを感じることもまずありません。移植した髪は術後4ヶ月ほどで伸び始め、同時に太くなっていきます。6〜10ヶ月程度で自然な感じに生えそろいます。その後はまったくメンテナンスの必要がなく、パーマやヘアカラーなども自由です。
危ないヘアトラブル こんなケースは要注意
「年のせい」と思っていた髪のトラブルが、実は治療が必要な病気である場合があります。こんなケースでは、早めに医師の治療を受けることが必要です。
▼ 円形脱毛症
老化などが原因で起こる抜け毛は、少しずつ進行していきますが、突然、髪が抜けてくる病気があります。円形脱毛症といって、丸く脱毛するのが特徴です。大きさは1cm程度でほとんど目立たないものから、数cmに及ぶものまでいろいろです。円形脱毛症は1個だけとは限らず、数個同時にできることも珍しくありません。それらがつながって、ついには全部の髪が抜けてしまうケースもあります。これは全頭脱毛症と呼ばれます。
原因はまだはっきりとはわかっていませんが、ストレスが関係しているといわれています。人間関係や家庭問題、転職など、精神的ストレスがきっかけで起きるケースも少なくありません。また、性格的にも、真面目で几帳面な人、神経質な人に多く見られます。円形脱毛症は自然に治ることも多い病気ですが、脱毛範囲が広がる前に専門医を受診したほうが安心です。特に全頭脱毛症の場合は、必ず受診するようにしましょう。治療ケースによって違いますが、精神安定剤やビタミン剤などの内服薬などが処方されます。病院を受診することによって、薬の効果だけでなく、治療を受けているという安心感がプラスに作用して、治癒を早めるケースも多いようです。
▼ 病気による脱毛
頭皮に炎症が起きたために、髪が抜けることがあります。特に毛包炎といって、髪をつくりだす根っこの部分が細菌に感染して炎症を起こすと、髪が抜けやすくなります。慢性毛包炎になると発毛しなくなるので、早めに治療することが必要です。頭皮が赤くなったり、かゆみや痛みを感じたりした場合は皮膚科を受診しましょう。そのほか、全身性の病気が誘因となって、脱毛が起きる場合もあります。原因となる病気は、甲状腺の異常、糖尿病.肝臓病、膠原病、梅毒などです。こうしたケースでは、育毛剤などに頼るよりも、とにかく体の病気を治すのが先決。まずは原因となる病気を治療することを考えましょう。