99%に効果だって?
「飲む育毛剤」の日本上陸
心細くなった毛髪。育毛剤を毎朝、振りかけているのに、効果が上がらない。そんなに悩みを持つご同輩、米国で話題の「飲む育毛剤」をご存知か。
脱毛治療の内服薬「プロペシア」(一般名フィナステリド)だ。
男性ホルモンの活性化を抑えることで発毛を促し、使用者の99%に改善が見られるという。科学に基づいた最強の毛生え薬が、早ければ来春、日本に上陸する。
調査研究本部主任研究員 大西正夫
壮年性脱毛症、若はげなど男性型脱毛症に悩む日本人は千数百万人に上る。成人男性の3人に1人は薄毛を気にしており、その3分の1は育毛剤を使っているか、使ったことがある、との調査もある。
1999年に、大正製薬から初めて医薬品としての育毛剤「リアップ」(一般的ミノキシジル)が発売された時は、爆発的な人気を呼んだ。だが、その効果は、せいぜい、薄毛の改善が約3割、現状維持を含めると7割で、逆にいえば、効果なしが3割もいたことになる。そこへ、効果が100%近く、しかも、飲むタイプの脱毛治療薬と聞けば、心中穏やかではいられない。
実はこのプロペシア、米国ではすでに97年に発売されており、日本では個人輸入で手に入る。開発した・販売した米国メルク社の日本法人、万有製薬によれば、世界での年間売り上げが約2億円4000万ドル。世界66か国で発売され、日本でも現在、厚生労働省が審査中だ。
副作用なし、個人輸入で
ところで男性型脱毛が、どうして起きるか、最近になって、ようやくその仕組みが分かってきた。坪井良治・東京医大教授(皮膚科)によれば、精巣で作られた男性ホルモンのステトステロンは血液を介しても毛根下部に運ばれ、5α(ファイブ・アルファ)還元素の作用でジヒドロテストステロン(DHT)に変換される。
このDHTは、ホルモン活性がテストステロンの10倍も高く、毛乳頭細胞に存在する男性ホルモン受容体(レセプター)と結合すると、毛母細胞の分裂を抑制する。その結果、毛髪が長く太い硬毛に成長する前に抜けてしまうのだ。実際、男性型脱毛症では、脱毛部分の頭皮に多量のDHTが含まれている。そこで、DHTに変換する5α還元酵素の働きをじゃましてやれば、抜け毛を防ぎ、発毛を促すことが可能になるというわけだ。
もともと、この薬は、前立腺肥大症をターゲットに開発が進められた「プロスカー」の副産物だった。前立腺肥大も、同じようにテストステロンのDHT変換を抑制することで発症を食い止められるからだ。プロスカーの1日容量1錠5ミリグラムに対して、プロペシアは1ミリグラムと少なくて済むが、坪井教授は、プロペシアの服用で脱毛症治療と前立腺肥大予防が同時に可能になるとみている。
さて、プロペシアの効果のほどは---。米国で認可、発売に先立ち約1500人の男性型脱毛症患者を対象に実施された臨床試験では、66%に毛髪の改善が見られた。抜け毛か止まるなどの「現状維持」も含めた33%を合わせると、なんと99%もの患者に効果があったのだ。プロペシアを用いない偽薬(プロセボ)郡は、72%に脱毛が続いたことからも、効果の程がわかる。
ホルモン系に作用する内服薬ということで懸念される副作用も肝臓、腎臓、胃腸ともにほとんどなかったという。性欲減退などの性機能障害について、投与郡で4.2%(ブラセボ郡2.2%)だったが、問題となる出現率でなあんかったとされる。
日本では、万有製薬が臨床試験を行い、昨年3月、承認申請が出された。来年にも市販され見通しのようだ。しかし現実には。米国などから個人輸入の形で国内にも一部入っており、それを使って脱毛治療を手がけているクリニックもある。
その一つ、東京・西新宿高層ビルにある城西クリニックには、「髪が薄い」「将来はげるのでは」と不安を抱える30歳前後の男性が数多く訪れる。
脱毛「治療」の夜明け
5年前にオープンして以来、インターネットでプロペシアの効能を知り、ワラにもすがる気持ちの人が多い。しかし、誰でもプロペシアを処方するわけではない。説明を聞いたうえで薬が効きやすいタイプかどうかを遺伝子で調べる検査を受ける。薬も、プロペシアをベースにリアップやビタミンミネラルなどを調合した粉末タイプだ。もちろん、健康保険は利かない自由診療なので、費用は全額自己負担。1か月間で約3万円かかる。
小林一広院長は、「治療開始後、最低6ヶ月間で何らかの変化が生じるので、1年間の服用が必要です」と語り、外用薬、いわゆるトニックタイプの育毛剤との併用が効果的だという。併用について、前出の坪井教授は「1プラス1が2になるというより、1.5ぐらいのの感じ」と発表する。
城西クリニックの治療成績は「患者さんの満足度が一人一人で違うので、きっちり数量化できていないが、平均70点から80点というところ」(小林院長)だ。
3枚組みの写真は、4年前に治療を始めた当時35歳の患者の1年後と4年後の増毛ぶりを示している。誰しもこうなるわけではないが、「現状維持」を目標に置く現在の外用育毛剤市場の常識からいえば、経口治療薬の威力はやはり大きいのだ。
プロペシアの価格は、米国で1錠1.8ドル程度(日本での価格未定)だが、世界的には保険適用になっていない国が圧倒的に多い。生命や健康にかかわる疾患ではないとういう理由からだ。その意味では、バイアグラやレピトラなど勃起障害(ED)治療薬と同じ生活改善薬に分類される。
生活改善に関連するクオリティー・オブ・ライフの訳語は普通、「生活の質」であるが、脱毛治療の成果が自身の回復や平静心、充足感につながるのであれば、「人生の質」に置き換えてもよい。
坪井教授によると、一時期まで男性型脱毛症は、遺伝子要因によって生じる生理的な変化、ととらえられ、疾患として治療する考え方はなく、適切は治療約もなかった。しかし、今日では次々に新しい強力なトニックタイプの育毛剤が現れ、リアップの出現も第四世代、第五世代と称される新製品が目白押し。科学的根拠に基づいた世界初の経口治療薬プロペシアの上陸は、日本の脱毛治療を根本から変える可能性を秘めている。