「最新発毛医療とメンタルケア」
できることなら、いつまでもふさふさの髪でいたいというのが皆の願い。頭髪医療はどこまで進んでいるのか。専門医に話を聞いてみた。ついこの間まで、世間では「ほんものの毛生え薬が発明されたらノーベル賞ものだ」などといっていたものである。今年、新聞各紙で、世界初の「飲む発毛剤」プロペシア(薬剤名フィナステリド)が厚生労働省の販売認可を受け、わが国でも発売される見通しとなったと報じられた。この薬は、米国など世界60ヵ国余ですでに発売済みで、米国の治験では2年間服用を続けると99%脱毛の進行を抑え、6割強で発毛を促す効果があったという。こうした最先端の治療薬を活用し、精神面を含めて生活の質を改善していくことが、21世紀の頭髪医療の課題となっている。
今回は、日本で数少ない総合頭髪治療の専門機関・城西クリニック(東京・新宿)の小林一広院長を訪ねた。
1.女性にも増えてきた薄毛、抜毛の悩み。「現代生活のストレス」も原因に
一般に、薄毛・抜毛など髪の悩みは、主としておじさんたち−中高年男性のものと思われている。ところが小林院長によると、髪の悩みで来院する人は、20代、30代の若い男性が圧倒的に多いのだという。「髪が薄くなるのは加齢的な変化の一つではありますが、他の老化現象と比べて個人差が非常に大きいのが特徴。たとえば老眼になるとか、耳が遠くなるというような変化は、多少の個人差はあっても、だいたい皆同じような進行が見られます。特別な疾患でもなければ20代で白内障になったり、補聴器が必要になるということはまずありません。ところが髪の毛については、20代で薄くなる人もいれば、60歳、70歳でもふさふさの人がいる。若い人ほど『なぜ自分だけこんなに薄くなったのか』と深刻に悩むんです」脱毛症には、自己免疫異状による円形脱毛症や心因性の抜毛症、女性の更年期による脱毛など、いろいろあるが、来院する人の大多数は、男性型脱毛症と呼ばれる症例。前頭部や頭頂部から薄くなる。前頭部の生え際から後退していくM型、頭頂部から薄くなっていくO型が典型的なパターン。男性型脱毛症と呼ばれるのは、脱毛原因に男性ホルモンが関与しているからである。
髪が薄くなるのはなぜか。ヘアサイクルから見ると・・・
そもそも髪は、一定の期間を経ると自然に抜け落ち、抜け落ちたところから、また新しい髪が生えてくる。この周期をヘアサイクルといい、平均5年が1サイクルだ。髪は1本1本脱毛の時期が違うし、ヘアサイクルも違っているので、通常は一度にまとめて抜けることはない。もう少しくわしく述べると、ヘアサイクルは、成長期、退行期、休止期の3段階に分けられる。
・成長期 毛母細胞や毛乳頭の活動が活発で髪が成長を続ける時期。この期間は2〜7年。全頭髪の80〜90%がこの状態にある。
・退行期 髪の成長がストップする時期。この期間は数週間。頭髪の1%程度がこの状態にある。
・休止期 次の髪の毛の生成が始まるとともに、脱毛が始まる。
休止期の髪が抜けるのは正常なことだが、脱毛症の特徴は、成長期が短縮すること。生まれた髪が十分成長しないまま休止期に移行し、抜けてしまうのだ。このように成長期から休止期までの一連の周期が乱れると、髪の量にも変化が出てくる。いったん発毛バランスが狂うと、生まれた毛が細く弱々しくなっていく。末期的には、うぶ毛状になり、やがてそこからは発毛しなくなる。
髪の悩みは容姿に関わる。
そこにデリケートな問題が
抜毛原因の4大要素といわれるのが、男性ホルモン、遺伝、食生活や生活習慣、そしてストレスだ。男性型脱毛症は、男性ホルモンの一種DHT(ジヒドロテストステロン)が毛嚢の細胞内でアンドロゲンレセプターと結合し、毛の発育をつかさどる毛乳頭・毛母細胞に悪影響を及ぼして脱毛を引き起こすといわれている。また、男性型脱毛症には遺伝的要因が関係するといわれ、両親の家系に禿げた人がいる場合、子供がその素質を受け継ぐ可能性はかなり高くなるという。過度のストレスも毛根の細胞機能を狂わせる。
一方、円形脱毛症などでは、毛根周囲でリンパ球などの炎症細胞の浸潤が起こっていることが明らかになっており、その原因は自己免疫異状などが考えられるという。「脱毛症と一口にいっても、その発症原因や治療法は、一人一人違います。その一人一人の症状や原因に対して、皮膚科・形成外科・精神神経科を中心として、内科・婦人科を含めた各専門医師が最新の情報と技術を提供し、最適な治療を施す。それが私どもが行っている総合頭髪治療です」老眼や難聴などと違って、髪が薄くなったからといって、ただちに日常生活に支障をきたすというものではない。しかしながら、髪の悩みはなにより「容姿」に関わる。そこにはかなりデリケートな問題が潜んでいるだろうことは想像に難くない。頭髪治療におけるメンタルケアのウエイトは大きいのだ。小林院長の専門は、精神神経科である。
2.「抜毛」をどこまで許容できますか?精神面でのヘルスケアが悩み解決の鍵
他人の視線を気にして生き方が消極的になる人も
鏡を見て、髪が薄くなったと感じると、このままどんどん禿ていくのではないかと、誰しも不安になるもの。小林院長は髪にまつわる不安を次のように解説する。「私たちの髪の毛は1日に100本近く抜けています。それだけの毛が抜けては生えてくるという、新陳代謝の活発な場所はほかにないでしょう。しかし抜毛は目立つけれども、生えてくる毛は目に見えない。そこから来る不安も大きいのです。また、日本人の国民性とでもいいましょうか、皆と同じなら安心だけれど、自分だけ違っていると不安になるという心理もある。20代、30代で髪が薄くなると、どうしても自分だけ老けて見えてしまう。同年代の人と比べて、自分だけ違っていることが受け容れにくいのです。女性の場合も同じで、更年期に髪が薄くなってショックを受ける人が多い。予期せぬ体の変化に適応できなくて、右往左往してしまうのです」50代の来院者数は男女比が逆転し、女性のほうが多くなるという。
「男性の場合は、人より早く薄くなった人でも、50代になると周囲が追いついてくる。結局オレと同じになったじゃないか、ということで悩みが軽くなったり、あきらめの境地に達したりする。しかし、特に更年期の女性の場合は個人差が大きいので、なぜ自分だけが・・・・・・というショックと、これからどうなるのだろうという恐れにさいなまれる。他人の髪にばかり目が行き、友だちに旅行に誘われても人前に出るのが嫌で断ったり−人知れず苦痛を感じている女性たちは多いのです」
「髪は女のいのち」と昔からいわれてきただけに、女性の髪の悩みは、とりわけ深刻なのだ。「髪に悩む人たちに、発毛治療を施し、髪の再生を試みる一方で、メンタルな部分でのケアも大切だと思うんです。たとえば、癌と診断されて『ああもう駄目だ、私は死ぬんだ』と思った人と、癌であることを受容して人生をポジティブに組み立て直した人とでは、同じステージの癌でも予後が違うということがある。病は気からではありませんが、心の持ち方というのは大きい。そのために、精神神経科医の私がいるんです。髪の改善がその人の人生を変える、などというと大げさですが、たかが髪、されど髪。髪は心の鏡になると私は思います」
頭髪再生治療には専門医の精神面での助言が必要
ぶしつけな言い方になるが、どこからが禿げで、どこからが禿げでないかという確固たる医学的基準はない。外科であれば、骨が折れているか折れていないか骨を見ればただちにわかるが、髪の毛についてはそんなふうに白黒をつけることができない。そこに治療の難しさがあると小林院長は語る。「治療を始めて、ある程度改善が認められて発毛があったとしても、それが本人にとって満足できるレベルでなければ、いくら私たちが『生えましたね、効果が出てきましたよ』といっても駄目なんです。一般的な病気やケガの場合、治療終了の最終決定は医者が下しますが、ここでの治療終了のホイッスルは医者ではなく、患者さんに吹いてもらうしかありません。私たちにできることといえば、その笛を吹くタイミングと、吹き方をアドバイスすることくらいです」
3.発毛・育毛技術からメンタルケアまで。ここまで進んだ最先端の頭髪医療
「私どもの総合頭髪治療は、検査、診断、治療、アフターケアという流れで行われます。患者さん本人には、検査に基づいてわかり得る限りの情報を提供し、現在ある最新医療でできる範囲の改善をすべて開示したうえで、やれることはやりましょうという話になります」発毛治療の場合、最初に来院者への専門スタッフによるオリエンテーションがあり、治療内容、期間、費用についての説明がなされる。本人が納得し、治療の開始を望めば、発毛効果を評価するための最初の写真撮影を行なう。次に、血圧測定、血液検査、医師の問診、治療に関するインフォームド・コンセントが行なわれ、薬が処方される。あとは約1ヵ月ごとに定期的な診察を行なう。システマティックな流れだ。
専門クリニックでは医師の管理下で最新発毛剤を使用
処方される薬は2種類。冒頭に述べた世界初の「飲む発毛剤」プロペシア(薬剤名フィナステリド)と、外用薬ミノキシジルが医師の管理下で処方される。注目を浴びるプロペシアは、男性型脱毛症の原因といわれる男性ホルモンの活性化を抑制し、抜毛を防止する。実際の発毛率はかなり高い。しかし−「前述のように、髪の悩みというのはデリケート。これだけ生えたら、もういいだろうという単純な問題ではありません。髪の再生は第一のポイントですが、誰が見てもふさふさなのに、『このままではどんどん抜ける』と恐怖感を払拭できない人もいる。もともとそういう不安や悲しみがもとで来院されたのですから、それらの苦痛をなくすことが、究極のゴールといえるでしょう」通常、治療期間は最初の話し合いで、まず半年頑張ってみようということになる。薬の効果は今日使って明日あらわれるというものではなく、3ヶ月くらいで変化がわかるようになるからだ。本人がその効果に満足し、あと2ヶ月で治療を終わらせたいと望んだ場合は、これまで毎日服用していた薬を翌月は2日に1回、さらにその翌月は3日に1回と徐々に減らしていく。薬を急にやめた場合の悪影響を防ぐためだ。もちろん、薬を減らした維持療法を継続することもできる。
費用は標準で初診時1万5750円(消費税・検査料含む)、毎月の診療費3万1500円(消費税・30日分の薬代含む)。すべて自費診療である。多少、個人差はあるだろうが、専門の医療機関だけあって、町のヘアサロンと比べるとかなりの低料金である。