世界で初めて「飲む」脱毛防止・発毛薬がいよいよ国内で販売される。海外の臨床試験では90%の患者に「効果」があったという。髪に悩むご同輩にとってはバイアグラ級の朗報だが、実はこの薬、効くアタマと効かないアタマがあって―。
商品名は「プロペシア」(一般名フィナステリド)。
世界有数の製薬会社、米国メルク社が、すでに1998年にアメリカで発売。これまでに世界60か国以上で使われている。自社の前立腺治療薬の服用患者の頭髪が増えていくのに着目して、この薬が開発された。国内では万有製薬が2001年に臨床試験を開始。国内販売に向けた準備を進めてきたが、忍び寄る危機感から、ネットの個人輸入で服用していた人も多い。その“期待の大物”が、ついにお目見えするわけだ。当初、発売時期を11月末から12月初めとしていた万有製薬は10月24日、発売延期を急きょ発表。「安定供給に万全を期すため。遅くても年内には」(同社)としており、爆発的な需要に備えて量産体制を立て直しているようなのだ。国内の発毛剤では、外用薬の「リアップ」が有名だ。大正製薬から99年に発売されたリアップは、発売された初年度の売り上げが300億円近くに達する大ヒット商品となった。発毛・育毛剤市場には現在、第一製薬、ライオン、花王などがそれぞれ新製品を投入して、売り上げを競っている。
脱毛を予防する仕組み
さて、今度販売になるプロベシアは、これら従来の発毛・育毛剤と、どこが違うのか。まず、プロペシアは医師が処方する薬で、「大衆薬」と位置づけられるリアップと違い、町の薬局では買えない。皮膚科などで「男性型脱毛症」の診察を受けたうえで
処方される。薬が作用する仕組みも、もちろん異なる。リアップをはじめとする外用薬は、毛根の近くの毛細血管を広げて血液の流れを活発にすることで、毛の成長を促すことを狙っている。それに対しプロペシアは「発毛・育毛」よりも「脱毛予防」が主眼で、薬が体の中から働きかける。発毛・育毛の自由診療を行っている城西クリニック(東京都新宿区)では、医師の個人輸入で、すでに7年以上、1万人以上の患者にプロペシアを処方している。同クリニックの脇坂長興・形成外科部長が、こう説明する。「脱毛の原因は、強力な男性ホルモンの一種、DHT(ジヒドロテストステロン)が髪が生える毛根を縮小させるから。このDHTが生成される過程で重要な役割を果たす酵素の働きを、プロペシアの成分が食い止めることで、結果的に髪が守られるのです」男性の場合、ちょうど前頭部から頭頂部にかけての毛根近くにDHTを生成する体内酵素が多く存在するので、ハゲやすくなるのだ。DHTを生成する体内酵素は全身に存在するが、プロペシアは前頭部から頭頂部の毛根近くの酵素だけに働きかけて、毛根の至近距離でDHTが生まれるのを防ぐ役割をする。気になる価格だが、万有製薬が示した参考処方価格は、1錠当たり250円。1日1錠服用なので、診察料を除き薬代だけで月7500円かかる計算だ。保険外の自由診療なので全額自己負担となる。
遺伝子検査で判定
万有製薬が国内で行った臨床試験では、1日1回、1ミリ・グラム錠の服用を1年間続けた患者のうち、58%で、頭髪が増えたり、太くなるといった「改善」が見られた。同じ髪の状態が「維持」されたのは40%。服用したにもかかわらず、脱毛・薄毛の症状が「進行」した、つまり効かなかった男性は2%だった。この数字を見る限り、プロペシアは確かに効く。だが、効果というのは個人差が大きいのが常だ。月1万円近い効果な薬を、最低でも6ヶ月は服用を続けなければ、その効果は目に見えないという。事前に薬の効き目が分かる方法はないか。実は、プロペシアの効果を予測する方法はある。前出の城西クリニックが実施している男性ホルモン受容体遺伝子検査が、それ。海外の研究で、脱毛症患者の症状の程度と、男性ホルモンに敏感な体質を示す遺伝子の有無は関連があることが分かっている。非常に敏感な体質を示す遺伝子を持っている患者は、DHTにも毛根が敏感に反応して脱毛が進むために髪が薄いのだ。こうした男性ホルモンに非常に敏感な体質の脱毛症患者は、プロペシアがよく効くと考えられる。逆に、男性ホルモンにそこそこ反応して、ゆるやかに進行している脱毛症には、劇的に効くとは考えにくい。また、皮脂の過剰分泌やフケが直接的な原因となっているタイプの脱毛症には、プロペシアは直接有効とはいえないのだ。実は、城西クリニックの医師を中心とした研究グループが実際、488人の患者の男性ホルモン遺伝子とプロペシアの効き目の関係を調べたところ、「予想通りの結果が出た」という。同クリニックでは遺伝子検査だけの診療は行っていないが、検査代はだいたい1万9000円程度かかる。「男性型脱毛症が進んでしまった患者に対しては、プロペシアだけで髪フサフサというわけにはいかない。プロペシアは『発毛剤』というより、『脱毛予防剤』で、納得のいく効果を得たいならば、リアップなどの発毛剤やサプリメントなどと併用して治療をすることを勧めています」(脇坂・形成外科部長)ちなみに、リアップは1か月分の使用量に相当する120ミリ・リットルのパッケージ商品が9975円。1か月にプロペシアと合わせて、髪フサフサ(になるかもしれない)のために、2万円以上の費用がかかる―。プロペシアは、胎児に影響を与える可能性があるため女性は対象外。服用をやめると、髪がもとに戻ってしまうことも気になる。危機一パツのご同輩、カミとカネ、どちらを取る?