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週刊文春 2003年9月11日
週刊文春
「ハゲ、薄毛」男の悩みに答える最新知識

髪は身体の一部。それゆえ失われていく頭髪に悩みを抱くのは自然なことなのだ。しかし人に言えぬ不安を持つ者は弱い。今年六月東京都が毛髪業者に対し業務の改善指導を行った。自己防衛のために知っておきたい正しい毛髪知識と発毛治療の最前線レポート。

「髪は女の命」というが、実際のところ毛髪に関しての悩みがつきないのは男性ではないだろうか。「ハゲ、薄毛」の悩みを抱えた男性のなかには、育毛・発毛サービス・かつら業者に「これを使えば髪が生える」「かつらがどうしても必要だ」などと勧誘され契約、金銭トラブルに発展するケースが絶えない。この世界は業者も多く、文字通り玉石混淆なのだが東京都は、この六月、毛髪業者に対し業務の改善指導を行っている。

二十八歳のとき、カツラを作ったA氏(41)が語る。「両親ともにハゲの家系。いつかは、自分もという覚悟はありました。銀行に就職してから、ストレスで一気に生え際後退。親の勧めもあり、ある大手の店を訪ねたんです」勧められた部分カツラは六十万円のもの。しかしハゲの進行に合わせてメンテナンスが必要だから、スペアを買うように言われた。「従業員はみんな、髪がフサフサの同世代の男性。なんだか卑屈な気分になって、言われるままに購入しました。その後はシャンプーや散髪のたびに店を訪れると、耳元をこう修理するともっと自然に見えますよ、なんて、囁かれる。これは効きます」

八年間でA氏がつぎ込んだお金は五百万ほど。この先、自毛が白髪になったら、いくらかかるか分からない。そう考えたA氏は、結局カツラをやめ、今はスキンヘッドで会社に通っている。

現在大学生のF君の話。「話を聞くだけのつもりが、そのままでは将来ハゲると言われ、夕方五時頃から九時頃まで勧誘されました。家に帰ってから考えたいと言ったにもかかわらず、帰してくれない。根負けしたカタチで、三十万円の育毛コースを契約させられました」毛髪サービスには、かつら、増毛、発毛、育毛がある。増毛は、自分の毛に何本か人工的に髪を結び付け、増えたように見せる方法。地毛がなくなればそれまでだが、かつらより自然な感じに仕上がる。しかし、A氏と同じく、カットやシャンプーも業者に行かなくてはならないため、そのたびにいろいろ購入することになる。発毛は、実際に地毛が生えてくる効果を期待するもの。育毛は今ある毛の抜け毛を防ぎ、ハゲを予防する効果をさす。が、いずれも誇大広告や、脅迫めいた勧誘被害の例が各地の消費者センターに寄せられている。」

「思い込み型」ハゲが危ない

東京都では、消費者生活総合センター等に寄せられた毛髪関係の相談情報をもとに、平成十四年十二月〜十五年三月の期間、育毛・増毛サービス、かつら事業者主要八社に関し、「東京都消費者生活条例」「不当景品類及び不当表示防止法」に基づく調査を集中的に実施。違反業者の改善指導を行った。

そもそも、都がこの調査を行った目的は、育毛・増毛・かつらサービス業を「特定継続的役務提供契約」の規制対象とするよう、経済産業省に働きかけるのが狙いだ。「特定継続的役務提供契約」とは、契約をした時点では効果が分からないのに、長期にわたって提供されるサービスを対象にしたもの。契約後にも解約できる、など特定商取引法で規制されている。この規制は平成十一年十月から施行され、現在は「エステティックサロン」「語学教室」「家庭教師、通信指導等」「学習塾」の四業種が規制対象となっている。この四業種に関しては、八日間のクーリング・オフ、不正勧誘規制、中途解約等が定められているのだ。都は「育毛・増毛・かつらサービス」も規制対象にするように国に提案要求したが、経済産業省はこれを却下した。平成十三年十二月、関係十社が「日本毛髪業者協議会(現・日本毛髪業協会)を設立、事業者が守るべき「ガイドライン」による自主規制をスタートさせ、改善の姿勢が見られるというのが理由の一つだ。」

日本毛髪業者協会に加入している会社は、アートオブヘアー、アートネイチャー、アデランス、エーディーイー、スヴェンソン、テクノヘア、東京義髪整形、バイオテック、フォンテーヌ、プロピア。加入会社のひとつであるアデランス広報部にガイドラインの内容を聞いた。「今年六月三十日に、協議会を法人化したのと同時に『日本毛髪業協会』と名前を変更し、毛髪業界が消費者の方から信頼を得られるように、活動しています。ガイドラインに関しては、八日間のクーリング・オフはもとより、特定継続的役務提供契約の規制内容とほぼ同じ内容の自主規制をしています。もちろん、協会加盟店に対するクレームも受け付けています」しかし、アデランス広報部でも、協会加盟店以外がどのような営業をしているかは、よく分からないという。

国と都では、姿勢が異なるわけだが、ちなみに消費者相談によせらせるエステティックの平均契約額が約四十五・四万円、最高契約金額が約七百三十二万円に対し育毛・増毛サービスの場合は、平均契約金額が約百二十三万、最高契約金額約六百六十万円となっている。都は引き続き毛髪業界の調査を続ける方針。さて自己防衛のためには、まずは髪のメカニズムを把握しておかなくてはならないだろう。

すべての毛髪は成長期→退行期→休止期→成長期と周期的に変化している。このヘアケアサイクルが正常な間は、成長期の髪と退行期、休止期の髪がバランスよく配置されているので、髪はある部分だけが急に減ったりすることはない(ちなみに黒髪の人の毛髪本数は、約十万本)。そして、各周期の髪が占める割合は、成長期百本に対して、退行期一本、休止期十本といわれている。各周期の持続期間は、成長期が二〜五年、退行期が二〜三週間、休止期が二〜三ヶ月。正常なヘアサイクルが維持されても、休止期の髪は約一万本にのぼり、これが二〜三ヶ月の間に抜け落ちるのだから、一日の抜け毛の数は、ざっと百本ということになる。毎日百本の髪が抜けても、同時に百本の髪が生えてくれば、髪が薄くなることはないのである。

ところが、二〜五年続くはずの成長期が短くなり、早く後退期、休止期に入ってしまうと髪のバランスが崩れてしまう。休止期に入り、その下で発毛するはずの毛が発毛しないと、抜けた数だけ髪が減ってしまう。こうした成長期の短縮と発毛のトラブルは、同時に起こることが多い。つまり、抜け毛が多くなり、生えてくる毛が少なくなって、薄毛が進んでしまうのだ。

発毛に関する総合的な治療を行っている東京・新宿区の城西クリニック・小林一広院長のところには、毛がフサフサしている十代二十代の男性がよく相談に来るという。小林院長は、北里大学東病院では精神科を専門としていた。発毛に関する治療を行うようになったきっかけは、形成外科として頭髪治療を行っていた大学の先輩に頼まれたからだ。「人並みに髪があって、実際はまったくハゲる兆候は見られないのに、毎日ハゲのことばかり考えて治療に来る青年が実に多い。形成外科の先輩から、そうした『思い込み型』の患者のケアをしてほしいと、話をもちかけられたのが発毛治療に関わるきっかけです。悪質な毛髪サービス業者が一番騙しやすいのも、ハゲてないのにハゲていると思い込んでいるタイプです。こうした人たちは、問診だけで『あなたには治療は必要ありません』ということを納得するように、説明しています。」城西クリニックでは、必要に応じて形成外科、皮膚科、婦人科の医師などとチームを組んで、発毛治療に臨んでいる。まだ数は少ないが、発毛治療をする医院は全国に増えつつある。よく分からない発毛サービスを受けるよりは、専門の医師にまず相談した方が、安心して治療が受けられることは間違いないだろう。同クリニックの場合、発毛治療費は月に一度の通院で一回三万円(三十日分の薬代込み)。現在は月に約千二百人の患者を診察している。発毛治療としては、内服薬と外用薬(皮膚に塗る薬)を併用する。内服薬の薬剤名はフィナステリドという。

発毛剤だけが治療ではない

「アメリカのFDA(食品医薬品)では認可されていますが、日本では未認可、したがって自由診療になってしまいます。医師の指示に従えば副作用に対して大きな心配はありません」外用薬の薬剤名はミノキシジル。日本でも認可されており、大正製薬からリアップの商品名で発売されている。「ミノキシジルは、血圧を下げる薬を開発中に、多毛症という副作用が出たことから発毛効果がわかった医薬品。医師の処方なしには薬局で購入することができます。ただ、これ単独では、フィナステリドと併用する場合の効果のほどはでない。抗がん剤でも、患者さんによって効き目が違うように、発毛剤も人によって効き目が違う。ただ、正しい治療をすれば、発毛は可能であることも事実なのです。」その他には、生活や栄養面のチェック、必要な栄養補助など、総合的な治療を行い、発毛を促進されるのだ。「髪は体の一部ですから、発毛剤だけが治療ではない。肥満や偏食による栄養バランスの偏り、睡眠やストレスなどの生活面での問題点を解決しなくては、効果は期待できません」発毛治療終了後は、内服薬は中止。外用薬のみで髪の維持に移行する。この段階では治療費は発毛治療より安くなる。ちなみに、育毛剤は医薬部外品であり、直接に発毛の効果はないものをさす。

城西クリニックでは、発毛の他にも植毛も行っている。「自毛移植は、後頭部の毛髪を、薄くなった部位(生え際・頭頂部)に移植する医療技術です。後頭部や頭頂部のように男性型脱毛を起こしにくい特性を持っています。この特性は、生え際など、他の部位でも永遠に受け継がれていくことが医学的にも証明されています。」

発毛治療のゴールとは、髪のことで悩まない精神状態だ、と小林院長は断言する。「髪が薄くなるのは、加齢変化。治療をしても、若い頃と同じ髪の生え方になるわけではない。しかし加齢変化の速度を遅くすることはできる。髪が少しでも戻れば、仕事も手につかなくかった精神状態から脱却して、通常の日常生活が送れるようになる。それが最も大切なことなのです」小林院長は、薄毛で悩んでいる人たち同士での、ディスカッションの場を設けることを考えているという。「互いに悩みを打ち明けることによって、話に参加した人たちが、精神的に健康をとり戻す効果があるはず」バランスのよい食事、規則正しい生活を心がけ、頭髪専門病院を訪ねる。これが不安解消の最良の選択だろう。



週刊文春
【発行日】2003年9月11日
【発行所】株式会社文藝春秋
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